NBAの至高の称号
得点王、シーズンMVP、ファイナルMVPのトリプルクラウン
バスケットボールの歴史において、最も輝かしい個人とチームの成功を体現するのが「得点王、レギュラーシーズンMVP、ファイナルMVP」の三冠達成です。この稀有な偉業を成し遂げた伝説的選手たちの足跡をたどり、彼らがNBAの歴史にどのような影響を与えたのかを詳しく見ていきましょう。
目次
  • カリーム・アブドゥル=ジャバー:1970-71シーズンの偉業
カリーム・アブドゥル=ジャバー:1970-71シーズンの偉業
1970-71シーズン、カリーム・アブドゥル=ジャバーは圧倒的な得点力でNBAを席巻しました。平均31.7ポイントで得点王に輝き、その卓越したプレーはレギュラーシーズンMVPの栄誉をもたらしました。
ミルウォーキー・バックスに所属していた当時のカリームは、「スカイフック」と呼ばれる彼の代名詞となったシュートで相手ディフェンスを翻弄。バックスはリーグ最高の66勝15敗という驚異的な成績を収めました。
そしてプレーオフでも勢いは止まらず、ファイナルではワシントン・ブレッツを相手に平均27ポイントを叩き出し、4勝0敗の圧勝でチームを初優勝に導きました。この活躍によりファイナルMVPも獲得し、バスケットボール史に残る偉大な三冠を達成したのです。
カリームのスカイフック
誰も止められない必殺技
完璧な技術
右腕を伸ばし、指先でボールを転がすようにリリース。身長2m18cmの高さから放たれるショットは、ほぼブロックされることがありませんでした。
驚異の精度
カリームのスカイフックは単なる高さだけでなく、その精度も驚異的でした。1970-71シーズンの彼のフィールドゴール成功率は57.7%という驚異的な数字を記録しています。
歴史的レガシー
このシグネチャームーブにより、カリームは通算38,387点という、長らくNBA史上最多得点記録を保持することになりました(2023年にレブロン・ジェームズに破られるまで)。
シャキール・オニール:1999-2000シーズンの圧倒的支配
29.7
平均得点
リーグトップの得点力で得点王に輝く
13.6
平均リバウンド
ペイントエリアを完全に支配
3.0
平均ブロック
リムプロテクターとしても一流の存在感
57.4%
フィールドゴール成功率
効率的な得点能力を示す驚異の数字
1999-2000シーズン、シャキール・オニールはロサンゼルス・レイカーズを率いて、圧倒的な存在感を示しました。その物理的な支配力は、MVPとファイナルMVPの両方を獲得するのに十分でした。このシーズンはフィル・ジャクソン監督とコービー・ブライアントとの黄金期の始まりであり、レイカーズの3連覇の第一歩となりました。
シャックとコービー:最強のダイナミックデュオ
バスケットボール史上最強のデュオの誕生
1999-2000シーズン、シャキール・オニールとコービー・ブライアントの組み合わせは、NBAの新たな時代の幕開けを告げました。シャックの圧倒的なインサイド支配力と、若きコービーの驚異的なスキルと競争心が融合し、最強のダイナミックデュオが誕生したのです。
この二人の存在により、レイカーズは67勝15敗という素晴らしい成績を残し、プレイオフでも圧倒的な強さを見せつけました。インディアナ・ペイサーズとのファイナルでは、シャックが平均38.0ポイント、16.7リバウンドという驚異的な数字を記録し、4勝2敗でチームを優勝に導きました。
互いに異なるプレースタイルと時に対立する個性を持ちながらも、コート上では完璧な相互補完関係を築いた二人は、その後も3年連続のNBA制覇という偉業を成し遂げることになります。
マイケル・ジョーダン:4度の偉業達成
1
1990-91シーズン
初めての三冠達成。平均31.5ポイントで得点王、レギュラーシーズンMVP、そしてレイカーズを破った初優勝でファイナルMVPを獲得。
2
1991-92シーズン
連続での三冠達成。平均30.1ポイントで得点王、2年連続MVPとファイナルMVPを獲得し、ブルズの連覇を達成。
3
1995-96シーズン
復帰後の栄光。NBA記録となる72勝10敗をマークし、平均30.4ポイントで得点王、MVPとファイナルMVPを獲得。
4
1997-98シーズン
「ラストダンス」での有終の美。平均28.7ポイントで得点王、5回目のファイナルMVPを獲得し、ブルズでの最後のシーズンを飾る。
マイケル・ジョーダンは史上唯一、「得点王・レギュラーシーズンMVP・ファイナルMVP」の三冠を4回も達成した選手です。彼の卓越した得点能力とチームを勝利に導く並外れたリーダーシップは、NBAの歴史に永遠に刻まれています。
ジョーダンの伝説:72勝10敗の史上最強チーム
1995-96シーズン、マイケル・ジョーダンが率いるシカゴ・ブルズは、レギュラーシーズン72勝10敗という当時のNBA記録を樹立しました。野球からの復帰後、ジョーダンの競争心は一層激しさを増し、そのシーズンの彼の活躍は圧巻でした。
平均30.4ポイント、6.6リバウンド、4.3アシストを記録し、8回目の得点王と3回目のレギュラーシーズンMVPを獲得。そしてプレーオフでもその勢いは衰えることなく、シアトル・スーパーソニックスとのファイナルでは平均27.3ポイントを記録し、4勝2敗でチームを優勝に導きました。
この72勝という記録は、2015-16シーズンのゴールデンステート・ウォリアーズ(73勝9敗)に破られるまで、約20年間もの間NBA記録として君臨し続けました。しかし、ウォリアーズがファイナルで敗れたのに対し、ブルズは優勝まで成し遂げた点で、多くのバスケットボールファンは依然として1995-96ブルズを史上最強のチームと評価しています。
ハキーム・オラジュワン:1993-94シーズンの四冠達成
得点王
平均27.3ポイントでリーグトップの得点力を誇示
レギュラーシーズンMVP
チームを58勝24敗に導く圧倒的な存在感
ファイナルMVP
ニックス戦で平均26.9ポイント、9.1リバウンド、3.6ブロックの大活躍
年間最優秀守備選手賞
攻守両面での卓越した能力を証明
1993-94シーズン、ハキーム・オラジュワンはNBA史上稀に見る「四冠」を達成しました。マイケル・ジョーダンが一時引退していた時期とはいえ、オラジュワンの攻守両面での圧倒的な活躍は、彼をNBA史上最も完璧なシーズンを送った選手の一人に位置づけています。彼の「ドリームシェイク」と呼ばれるポストムーブは、バスケットボール史に残る伝説的なテクニックとして今も語り継がれています。
ドリームシェイク:ハキームの神業テクニック
ポストアップ
背中でディフェンダーを押し込み、ポストポジションを確保。低く安定した姿勢で相手の重心を読み取ります。
フェイントの連続
片方向へのヘッドフェイクから始まり、足の動きと上半身の動きを巧みに組み合わせて防御者の重心を崩します。
素早いターン
相手が反応した方向とは逆に素早くターン。低い重心を維持しながら、驚異的なフットワークで空間を作り出します。
確実なフィニッシュ
作り出した空間から、フックショットやフェイダーなど多彩なシュートレパートリーで確実に得点。ブロックが難しい高さとタイミングでリリースします。
「ドリーム」vs「アドミラル」:伝説の対決
1995年西カンファレンス決勝の歴史的対決
1994-95シーズン、ハキーム・オラジュワンとデイビッド・ロビンソンの対決は、NBAプレーオフ史に残る名勝負となりました。
その年のレギュラーシーズンMVPに選ばれたロビンソンに対し、オラジュワンは「本当のMVPを見せてやる」と豪語。
西カンファレンス決勝では、オラジュワンが平均35.3ポイントという驚異的な得点を叩き出し、ロビンソン(平均23.8ポイント)を完全に圧倒。特に第2戦では41ポイント、第6戦では39ポイントを記録する大車輪の活躍を見せました。
この対決は単なるスキルの競争を超え、プライドと名誉をかけた精神的な戦いとなり、オラジュワンの勝利によってロケッツは2年連続のファイナル進出と優勝を果たしました。
この「ドリーム」と「アドミラル」の対決は、センターポジションの黄金時代を象徴する伝説的な一戦として今も語り継がれています。
レジェンド達の共通点:三冠達成の条件
圧倒的な得点能力
三冠達成者たちは全員、30ポイント前後の得点を安定して稼ぎ出せる選手でした。
特にジョーダンとアブドゥル=ジャバーは複数回の得点王タイトルを獲得しています。彼らの得点は単に量だけでなく、チームが最も必要とする瞬間に得点できる「質」も兼ね備えていました。
勝利への執着心
個人の成績を追求しながらも、最終的にはチームの勝利を最優先する姿勢が彼らの共通点です。
MVPとファイナルMVPの両方を獲得できるのは、レギュラーシーズンからプレーオフまで一貫して高いパフォーマンスを維持できる選手だけです。
プレッシャーに強いメンタル
最も重要な場面で最高のパフォーマンスを発揮する精神力を持っていました。
特にファイナルという最大の舞台でMVPを獲得するには、プレッシャーを楽しむほどの強靭なメンタルが必要です。
ジョーダンとレブロン:三冠達成者と現代の王
マイケル・ジョーダンは4回の三冠達成という偉業を成し遂げましたが、現代の最高峰と称されるレブロン・ジェームズでさえ、この三冠を同時に達成したことはありません。レブロンは得点王(2007-08)、4度のレギュラーシーズンMVP、4度のファイナルMVPを獲得していますが、これらを同一シーズンで達成することはできていません。このことからも、三冠達成の難しさと、ジョーダンの偉大さが際立っています。
シャイギルジオスアレクサンダー
30.4
平均得点
2022-23シーズンの平均得点(リーグ5位)
5.5
平均アシスト
優れたプレイメイキング能力
5.6
平均リバウンド
ガードとしては優秀なリバウンド力
54.7%
フィールドゴール成功率
効率的な得点パターン
オクラホマシティ・サンダーのシャイ・ギルジオス=アレクサンダーは、近年急速に成長を遂げ、NBAの新たなスーパースターとして注目を集めています。
洗練されたドリブルテクニックと驚異的なフィニッシュ能力を持つ彼は、2024-25シーズンに得点王とMVPを受賞しました。若さとリーダーシップを兼ね備え、再建途上のサンダーを率いることで、チームの成長と共に三冠を達成した
若手スター達:未来の三冠候補たち
ルカ・ドンチッチ
既に複数回の得点王レースで上位に入っているドンチッチは、圧倒的な得点力とプレイメイキング能力を兼ね備えています。
レイカーズのフランチャイズプレイヤーとして、彼のMVP獲得は時間の問題と言われています。
ジェイソン・テイタム
セルティックスの若きエースとして、オールラウンドな能力を持つテイタムは、既にファイナル経験も豊富です。
攻守両面での成長が続けば、三冠達成の可能性を秘めています。
アンソニー・エドワーズ
驚異的な身体能力と得点センスを持つエドワーズは、ティンバーウルブズの未来を担う存在です。
彼の爆発的な成長は、将来的なMVPや得点王の可能性を示唆しています。
三冠達成への壁:現代NBAの難しさ
現代NBAにおける三冠達成の障壁
現代のNBAでは、「得点王・MVP・ファイナルMVP」の三冠を同時に達成することがさらに難しくなっています。その理由はいくつか考えられます。
  • チーム構成の変化:スーパーチーム時代では、一人の選手に得点が集中しにくい
  • ロードマネジメント:長期的な成功のために、レギュラーシーズンで出場時間を制限する傾向
  • 3ポイントシュートの台頭:得点分布が変化し、インサイドプレイヤーだけでなく、シューターも得点王を狙える
  • 分析的アプローチ:効率性重視の風潮により、純粋な得点力だけでなく、総合的な貢献度でMVPが決まりやすい
これらの要因が重なり、過去の時代に比べて三冠達成のハードルは高くなっているのです。
得点王の変遷:スタイルの進化
1
1960年代-70年代:ビッグマンの時代
ウィルト・チェンバレン、カリーム・アブドゥル=ジャバーなど、圧倒的な身長と身体能力を持つセンターがリーグを支配。インサイドプレーを中心とした得点スタイルが主流でした。
2
1980年代-90年代:オールラウンドスコアラーの台頭
マイケル・ジョーダン、ドミニク・ウィルキンスなど、爆発的な得点力を持つスウィングマンが活躍。ミッドレンジからの得点に加え、派手なダンクやアクロバティックなレイアップが特徴でした。
3
2000年代:多様性の時代
コービー・ブライアント、アレン・アイバーソン、シャキール・オニールなど、異なるポジションと得点スタイルの選手が得点王に。リーグ全体のスコアリングが多様化しました。
4
2010年代-現在:3ポイント革命
ステフィン・カリー、ジェームズ・ハーデンなど、3ポイントシュートを武器とするガードが得点王に。効率性と空間活用を重視した新たな得点スタイルが主流となっています。
MVPの評価基準:時代による変化
1950-1980年代:統計的支配
この時代のMVPは主に得点やリバウンドなどの基本的な統計数値が重視されました。チームの勝利数も重要でしたが、個人の統計的な支配力がより強調される傾向がありました。
1990-2000年代:勝利への貢献
ジョーダン時代以降、MVPの評価基準はチームの勝利数との関連性が強まりました。単に統計的に優れているだけでなく、チームを上位に導く能力が重視されるようになりました。
2010年代以降:アナリティクスの時代
現代では、PER、VORP、真の効率値(TS%)などの高度な統計指標が評価に使われるようになりました。また、ディフェンスの貢献度も以前より重視されるようになり、総合的な選手価値が評価されています。
ファイナルMVPとその重み:チャンピオンシップの象徴
最も価値ある個人賞
ファイナルMVPは、多くの選手にとって最も価値ある個人賞と考えられています。なぜなら、それはただの個人の成功ではなく、チームの最終目標である優勝に直接貢献したことを意味するからです。
レギュラーシーズンの82試合よりも、プレッシャーの掛かるファイナルという最高の舞台で結果を出した選手に与えられるこの賞は、精神的な強さと真のリーダーシップを象徴しています。
歴史的に見ても、最も偉大な選手たちはファイナルMVPを複数回獲得しています。マイケル・ジョーダン(6回)、レブロン・ジェームズ(4回)、マジック・ジョンソン(3回)など、バスケットボール史に名を残す伝説的選手たちは、この舞台で輝きを放ちました。
三冠達成者たちは、レギュラーシーズンからプレーオフ、そしてファイナルまで一貫して高いパフォーマンスを維持できる、真の意味でのスーパースターだったのです。
バスケットボール史における三冠達成の意義
完璧なシーズンの証明
得点王、レギュラーシーズンMVP、ファイナルMVPの三冠達成は、一人の選手が攻撃面での卓越性(得点王)、レギュラーシーズンでの総合的価値(MVP)、そして最も重要な舞台での決定的貢献(ファイナルMVP)を全て証明したことになります。これは、バスケットボール選手として可能な限り完璧なシーズンを送ったことの証です。
歴史に名を刻む偉業
NBAの長い歴史の中で、この三冠を達成した選手はわずか4名(カリーム・アブドゥル=ジャバー、シャキール・オニール、マイケル・ジョーダン、ハキーム・オラジュワン)のみです。特にジョーダンの4回達成は、おそらく今後も長く破られない記録として残るでしょう。三冠達成者の名前は、自動的にNBA史上最高の選手たちの仲間入りを果たすことになります。
個人とチーム成功の完璧な融合
三冠達成は、個人の卓越性とチームの成功が完璧に融合した状態を表しています。得点王やMVPといった個人賞だけでなく、チームを優勝に導いてファイナルMVPも獲得することで、「自分のためだけでなくチームのためにプレーする」という理想的なバスケットボール選手像を体現しているのです。
偉業を追い求めて:バスケットボールの真髄
「たった一人でチームを引っ張れる」——そんな選手たちの力は、NBAの歴史を作り続けています。次の偉業は、君が見届けるかもしれません。
得点王、レギュラーシーズンMVP、ファイナルMVPの三冠達成。これは単なる個人の栄誉を超え、バスケットボールという競技の本質を体現する偉業です。個人の卓越性とチームの成功、レギュラーシーズンからプレーオフまでの一貫した活躍、そして最も重要な瞬間での輝き。
カリーム、シャック、ジョーダン、ハキーム、アレクサンダー。
彼らが成し遂げた偉業は、単なる記録ではなく、後続の世代に「何が可能か」を示す灯台のような存在です。現代のスター選手たちも、彼らの足跡を追いかけ、自らの名前をNBA史に刻もうと日々奮闘しています。
私たちファンは、次の三冠達成者が誰になるのか、そして彼がどのようにしてその偉業を成し遂げるのかを見届ける特権を持っています。
バスケットボールの魅力は、こうした歴史的瞬間を共有できることにもあるのです。